ヴァージニア・ウルフの語るもの

ヴァージニア・ウルフの「自分ひとりの部屋」(A Room of One’s Own)を読み終えました。

一応、自由な21世紀社会を生きているわたしたち。
しかし「自由であること」はいかに生きるべきかを何も教えてくれない。
何を拠り所にして生きていけばよいのでしょう。

このような社会状況は保守主義の政治家たちにとって非常に都合がよい。

社会問題を単純化して、権威的なものに頼ることで解決する方法を提示してみせることができます。
かつて封建的だったものを柔らかくあいまいなものにカムフラージュしたり、歴史上の人物をヒーローにしたり、あの手この手を使って権威あるものに仕立て、おすがりしなさいと声をかける。

大震災後、原発事故後、個人の力ではどうしようもない状況が発生しました。
老若男女、多くの人たちがお上にすがって生きなければならない。
権威ある者たちに請い願い、何とかその日をしのいでいる状態。

「自分ひとりの部屋」(A Room of One’s Own)はそんなわたしたちに、いかに生きるべきかを示してくれています。
そもそもが20世紀はじめの女学生たちに向かって語られたことばですが、今の日本人に対しても十分説得力を持つものです。

高等学校教育を受けていないウルフは自らを教育を受けていない(uneducated)人間と呼び、父権主義に染まった権威的で石頭のイギリス大学制度を嫌悪していました。
(実際にはキングスカレッジ女子部でギリシャ語、ラテン語、ドイツ語、歴史、古典を学んだようです)

本書では本能(instinct)ということばがよく出てきます。
前にも書きましたが、彼女の文章は論理的で統一性、一貫性がとても感じられる一方で、この本能(直感と言い換えてもよいかもしれません)を大事にしていました。

But when I look back through these notes and criticize my own train of thought as I made them, I find that my motives were not altogether selfish. There runs through these comments and discursions the conviction—or is it the instinct?—that good books are desirable and that good writers, even if they show every variety of human depravity, are still good human beings. Thus when I ask you to write more books I am urging you to do what will be for your good and for the good of the world at large. How to justify this instinct or belief I do not know, for philosophic words, if one has not been educated at a university, are apt to play one false.

しかし、これらのノートや批判をなぞってこれまでの思考を振り返って見ると、みなさんに本を書いて欲しいという動機はまったく利己的なものではありません。わたしのコメントやとりとめのない話には信念があるのです。いや直感といってもよいかもしれません。それは、たとえあらゆる人間の堕落を示しているとしても、よい本は望ましいものであり、よい作家はそれでもよい人間なのだということです。だからあなた方にもっと本を書いてくださいというとき、あなた方にとってよいこと、世界にとってよいことをなしてくださいと訴えているのです。この信念ないしは直感が正しいかどうか、わたしには説明できません。というのも大学教育を受けていない者が哲学的なことばを弄しても人を欺きやすいからです。(わたくし訳)

ウルフは哲学のことばを使って理論的に説明できないけれど、どんなにひどい堕落を表現したとしてもよい本は人間にとってよいのだ、良い作家はよい人間なのだという信念、直感を大事にしているのです。

Thus, with some time on your hands and with some book learning in your brains—you have had enough of the other kind, and are sent to college partly, I suspect, to be uneducated—surely you should embark upon another stage of your very long, very laborious and highly obscure career.

そして、あなた方は自分の時間を手にし、頭には本で得た知識が詰め込まれています。
これら以外のもの(当時の社会通念?)もすでに十分に持っておられ、思うにその一部を自ら学び直すために大学へ送り込まれました。いいですか、あなた方はこれからとても長くて、苦労も多い、そして世に知られることのない人生の舞台に旅立たなければならないのです。(わたくし訳)

本書の訳注でも述べられいますが、ウルフはuneducatedということばに特別な意味を持たせています。自身もuneducatedを自認するウルフは、権威側から与えられる教育によるものではなく、自分自身の本能や直感(instinct)による善の判断をしなさいと学生たちに呼びかけているように感じます。

論理的に一貫性のある展開で堅実な批評を進めるウルフですが、その鋭い切り口は創造性の源である本能や直感を頼りにしているということが本書を読むことでよく分かりました。
(実は優れた技術者の特徴でもある!)

<年収500ポンド>と<自分ひとりの部屋>に加えて、現実味を帯びた話をするには統一性、一貫性(integrity)が必要なこと。
権威が与えるものを鵜呑みにするのではなく、自分の本能や直感(instinct)を信じ、自ら学び直すこと(un-educated)。
(そのほか、心の中における男性と女性の統一による永遠性などさまざまなトピックが述べられています)

21世紀を生きる人間が、フェミニズム以外の観点から本書を読むと、こんな風に思われるのです。
自由な社会において、これらを実践することで「創造という果実」をわたしたちは得ることができる。

出張風景
東京駅
丸の内の反対側からだとちょっと冴えないですね
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反対方向
東京駅は周辺の高層ビルに駅の上の空中権を売ってリニューアルされました。
だから駅の上には何もない!
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12月29日の記事「5つが4つしかないミステリー」に出てきた袖師、清見寺、興津トンネル
山に隠れて清見寺トンネルは見えません(高架道路は東名高速道路)
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強風の吹く南アルプス
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